お気楽読書日記:9月

作成 工藤龍大


9月

9月25日

『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(リック・リオーダン)全五巻について書いたのが先月末。

あれからもう一ヶ月たったのか。

時間がたつのは早い。
あれから他社に研修で出向したり、緊急かつ重要案件に振り回されて、自宅PCをたちあげる余裕もなかった。
この年齢(とし)で、こんな忙しく作業していてどうなんだろうという気もするが、実質フリーランスの翻訳者と同じ立ち位置だからやむをえない。

物作りに関わる世界にいると、偉くなったところで、あまりろくなことがない。それよりはなるべく現場にいるのがポリシーだ。

役員や経営陣に加わったところで、翻訳業界では。。。。な立場だ。
一般企業とは微妙に違う。

いつフリーランサーになっても困らないようにしておくのがいちばん確かなサバイバル戦略だ。

ところで、『パーシー・ジャクソン』である。
このシリーズは、「見立て」という物語としては鉄板なわざを使っている。
たとえば、神々の住む聖山オリュンポスは、エンパイアステートビルの600階にある。
聖山の番人は、普通のガードマン(のようにみえる)。

神々と人間との間のハーフである子供たち(デミゴッド=半神)は注意欠陥・多動性障害と難読症の持ち主。しかも同じ神々とエルフや魔物の間の子であるギリシア神話のモンスターに常につけねらわれて、いつ殺されるかわからない。

このモンスターたちは、学校の先生に偽装して、ハーフたちに不意打ちして襲いかかる。学習障害児である神々の子ハーフたちには、学校が生命をかけた戦場だ。

安息所といえるのは、ハーフ訓練所という同類の教育センターだけ。他には安全な場所はない。

学校という場所にいい思い出がないわたしにはとても身につまされる設定だ。
実際、この設定は注意欠陥・多動性障害と難読症の持ち主である作者リック・リオーダンの息子の境遇がモデルだ。
学校生活で苦労している息子を慰めるために、ミステリー作家であるリオーダンはこのヤングアダルト小説を書いたそうだ。

子供を楽しませるには、衒学的に古代ギリシアなんぞをもってきても無理がある。だから、主人公で海神ポセイドンと人間のハーフ、パーシー・ジャクソンはアメリカ国内を神話世界の地名に見立てて、アメリカ国内を冒険旅行する。

世界を救うという目的のわりには、アメリカ国内を出ないのも不思議だが、理由はそんなところにある。せいぜいバミューダ・トライアングルに行くらいだが、アメリカ人である作者にとっても、読者にとっても、バミューダ・トライアングルの三頂点であるフロリダ半島はもちろん、プエルトリコもバミューダ諸島もほとんどアメリカの一部と思っているのではないか。

アメリカ国内になる偉人の銅像が、神々の作った巨大ロボットで、世界を亡ぼそうとするタイタン族(これが悪役)と戦うというのも、恥ずかしいような、嬉しいような「嬉し恥ずかし」感覚でいい。

アメリカの小中学生は噴き出しつつ、にんまりしているに違いない。

要するに、この作品は「お父さん」の愛情が下心いっぱいであふれている。
息子にかまってほしいんですな、この親父は。

そんなところが、どうにも気に入ってついに全巻読んでしまった。

父である神を恋い慕うハーフを描くことで、親父のせつないロマンをびしょびしょに垂れ流す『パーシー・ジャクソン』は、本当はヤングアダルト向きというよりは、息子と娘に相手にされないお父さんたちのための物語だ。

せつないねぇ。

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