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■    ■                                      No.006  01/02/25    
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■        ■      ドラゴニア通信                                  
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■      ■          歴史と読書を楽しむサイト「ドラゴニア」更新情報
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==== Index ===================================================

01: 今週の更新情報
02: 先週のお薦め読書日記
03: 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編2)
03: 編集後記

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◆ 今週の更新情報

  今週の更新状況はひどかった。(苦笑)
  読書日記を更新したのが、日・月・木曜日でした。
  あんだけ忙しかったのに、よくやったと納得するしかない。
 「継続は力なり」なんてね。

  これからも暇をみつけてアップするよう努力するつもりなので、よろ
しく。
  ついでに、励ましのメールと空メールをいつもありがとう。
  返信もあんまり出来ないけれど、感謝してます、ホント。
                                            (了)

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◆ 先週のお薦め読書日記

  更新回数は少ないながら、われながら力を入れて書きました。
  時間がなかった分、中身が濃くなったかもしれません。
  ただし、舌足らずなところもあるので、この場を借りて補足しておきます。

   「アイヌ語を読む」 2月19日
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d22.htm#19

  この読書日記で紹介したのは知里幸惠さんの「アイヌ神謡集」です。
  なぜこれが凄いかという理由が説明不足かなと思いました。

  本文でも書きましたが、この本では見開きの左右のページがアイヌ語
と日本語の対訳になっています。
  アイヌ語については、わたしは何もいえません。
  ただ日本語の訳は素晴らしい。これだけの洗練された言語感覚の持ち
主はそうはいない。一時代を画するにふさわしい才能です。
  もし二十一歳で亡くならなければ、日本の文学史に必ず名前が残った
人です。

  それをほとんど逐語訳に等しい翻訳でやってのけている。
  これは簡単なようにみえるけれど、そうそうできる芸当じゃない。わ
たしの職業として翻訳をやっているから、このことだけは身にしみて知
っています。

  良い翻訳は、意訳でしかありえない。良い翻訳とは二つの言語の発想
をたくみにすりかえたものです。
  変な例ですけど、羊の脳味噌のかわりにフグの白子を使って料理する
ような。
(「美味しんぼ」から採ったけど、やっぱり変ですね、喩えにしては。
海原雄山と山岡シローがこの二つで味勝負をした話なんだけど……)。


  出版翻訳業界の一部で信仰されている原文直訳主義なんて駄目なんです。
  日本語と英語のあいだで、もしもそんなことが出来るとすれば、その
理由は、明治以降の現代日本語がじつは英語・仏語・ドイツ語から大量
の語彙と慣用句を吸収したからです。
  有名な例では「青天の霹靂」。これは漢語じゃなくて<a bolt from 
the blue>という(英語の)慣用句の翻訳。
  他にも「火中の栗を拾う」なんてのもあります。
こっちは<pull a person's chestnuts out of the fire>という慣用句
の翻訳ですね。

  三島由紀夫がかつての学者(文学)翻訳家たちの文章を「日本語でも
ない外国語でもない化け物」と言っていましたが、じつはそれが現代日
本語なんです。
(この場合の現代とは明治以降のことです、念のため)。

  明治の文豪には創作だけでない。翻訳によって口語日本語を豊かにし
た大物もいます。
  森鴎外がそれ。鴎外はそもそも偉大な翻訳家として世に出たのです。

  鴎外が訳した小説(ドイツ語)の日本語から、男と女がくっついた/
離れたということよりも、もうちょっと込み入った状況を説明でき
る(明治以降の)現代日本語が生まれたといっても、いいんじゃないで
しょうか?
  あまりにも過激な意見ではありますけれど。(笑)

  思わぬ翻訳談義になりましたが、他の言語を逐語訳して文学のレベル
に達するものを作り上げることは神業に近いということはわかっていた
だけました?

   そんなことが出来るのは、天才だけなんです。


   「われは塔を建つる者なり」 2月20日
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d22.htm#20

  正直に白状すると、この言葉の出典には自信がありません。
  法華経関係の本を読んでいて見たはずなのですが、それが載っていた
はずの本がどこにいったかわからない。
  蔵書は五千冊を軽く越えているので、いったん行方不明になったら探
すよりも買うほうが早かったりします。(苦笑)

  しかし露伴はいい。
  わたしはここ一、二年で徳富蘆花がだんだん好きになってきました。
  もともと国木田独歩と森鴎外は大好きでした。
  わが愛する明治作家のリストに幸田露伴は抜け落ちていたのですが、
以前読んだ「連環記」でやっと露伴の高みがみえてきたようです。
  これから露伴の作品を読んでいこうと思います。

                                            (了)

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◆ 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編2)

  先週の続きでフロイトです。
  フロイトの最高傑作といえば「夢判断」。
  この本は無意識と対話するテクニックを始めて明らかにしてくれた名
著です。

  ついでにもう一つ面白いことがあります。
  フロイトが世に出る前の個人史的エピソードの出所はほとんどこれ。
  フロイトの伝記といえば弟子のアーネスト・ジョーンズ(故人)の
「フロイトの生涯」と19世紀専門の歴史家ピーター・ゲイの「フロイ
ト」が決定版なのです。
  ただしどっちも四十台前半のフロイトについては、「夢判断」に書か
れたことに基づいています。というのも、フロイトは個人的なエピソー
ドを回想その他の形式で発表することをひどく嫌ったからです。
  しかも、自分で書いた回想はほとんど事実を歪めている。
  フロイトが若い頃に書いたもので個人史的なものといえば、二十代こ
ろの手紙と、最晩年の日記しかない。それ以外のものは焼いてしまった
のですね。
  有名になってから書いた手紙はすでに公開を意図したものでした。
(ただし「夢判断」を書いていたころに文通していた手紙が死後発表さ
れて大騒ぎになったこともあります)。

  ただ患者の症例集や、研究論文なんかにぽろりと個人的なエピソード
を書いている。ほとんど知人の話としていますが、関係者からの証言で
フロイト本人のエピソードだとわかっています。
  そういう意味では、謎の多い人なんです。

  フロイト史家(そんなものがいるとすれば)の第一の仕事は「夢判
断」の解読といえるでしょう。

   そうしたことを踏まえて、「夢判断」をみていくと、この本が学術
書(?)の体裁をとったフロイトの自己告白に他ならないことがわかり
ます。
  つまり、この本に語られているエピソードはほとんどフロイト本人が
見た夢をどのように解釈したかということなのです。

  いってみれば、夢をみてそれをどう解釈するかという実践的フィール
ド・ノートでもあるわけです。

  フロイトは「無意識」という言葉を最初に発見したということがよく
云われますが、ほんとはちょっと違う。
  森鴎外の短編(「カズイチカ」?)にも書いてあるけれど、フロイ
トが本を出す前にニコライ・ハルトマンという哲学者が「無意識の哲学
」という本を出している。内容は私たちがいう「無意識」というより
は、ドイツ観念論のシェリングやヘーゲルの哲学に近いものです。
  ただ「無意識」(ウンベブストザイン)という言葉は19世紀の流行
語だったということはわかっています。

  フロイトは「無意識」の発見者ではないけれど、言語化されていない
記憶が人間の情動に深い影響を及ぼすことを明らかにした人です。
  そういう記憶を「潜在記憶」と呼ぶのは後世の弟子たちの仕事で、フ
ロイト本人はそういう言い方はしていないようです。

  医者であり精神分析家である弟子たちは、「潜在意識」という言葉に
はしなくも顕れる「器質論」に傾きがちだけど、師匠のフロイトはそれ
よりももっと深いところまで考えていました。
  だからこそ、21世紀になっても刺激的な思想家でありつづけるわけ
です。

  余計なお世話かもしれませんが、フロイトの「夢判断」を読むに当た
っては「潜在意識」だの「エディプス・コンプレックス」だの「集合的
無意識」だのどっかで聞き覚えた単語はいっさい忘れたほうがいいかも
しれません。読むには無駄なだけです。

  お節介ついでに、もう一言。
  「夢判断」の第一章は「夢の判断の学問的文献」ということで、文献
の羅列です。こんなのは、読むことはありませんよ。(笑)

  極端なことを云うと、忙しい人は全部読む必要はありません。
  第二章「夢判断の方法―ある夢実例の分析―」というのがあります。
これさえ読めば、入門編は終わり。

  「イルマの注射の夢」という例を引いて、フロイト本人がどうやって
自分の無意識と対話したかが、第二章の柱です。
  というより、「夢判断」の方法はここで出尽くしている。
 ほんの短い部分ですが、この夢の分析が「夢判断」のすべてです。

  そう書くと「なんだ、つまらない」といわれそうですが、そうじゃない。
  自分自身の本当の欲求をいかに発見するかという人生の大事なテーマ
を問題にしているわけだから、こんな凄い話もない。

  ただし繰り返しますが、そういう無意識との対話には「エディプス・
コンプレックス」とか「集合的無意識」なんてゴミは有害無益です。
  解釈に必要なのは、対話しようとする人の正直な態度です。
  夢解釈事典とか、精神分析読本なんてのも有害ですね。

  たとえば、自分が異性の親と性交している夢をみたからといって、近
親相姦したいと願っているわけではないのです。
  親が何を象徴しているのか、性交が何を象徴しているのか。それがわ
かるのは夢を見た本人しかいない。
  無意識というものは、象徴でしか話しかけてこない。
  謎をかけるスフィンクスみたいなもんです。象徴という謎を解かない
限り、人生の宝はみつからない。
  それは本当の自分というものです。

  だから空を飛ぶ夢を見ているのは、性交したい性的欲求不満をあらわ
すというのは大嘘。空を飛ぶということで、自分は何を表現したいのか。
それは本人じゃないとわからない。痛みが本人しかわからないのと同じ
です。

――ここまで書いているうちに、もう日付が変わってしまった。
続きはまた来週ということで、本日はお開きにさせていただきます。(笑)

                                          (この稿もっと続く)

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◆ 編集後記:

  えーっと、最初に謝っておきます。
  今回もたぶん誤字・脱字はあるでしょう。
(笑)と書きかけたけれど、笑っている場合じゃないんだよね。

  日曜の夜に書いているから、仕方がありません。前は少なくとも土日
に分けて書いていたので、見直す時間があったのですが……。
(あに、昔もあった? )

  今週は親戚が昔お世話になった恩人の方がなくなったために上京した
ので、久しぶりに週末を一緒に過ごして時間がとれませんでした。
  苦労の多い戦時中(太平洋戦争)に親身になって世話をしてくれた人
なので、どうしても最後のお別れがしたかったそうです。

  その頃の話を聞いて、しんみりしてしまいました。
  大変な時代だったけれど、みんな助け合って生きていたんだなと改め
て思いますね。

  いまも別な意味で大変な時代だけど、助け合って生きていきましょう。
お互いに。

  では、また来週。

            工藤龍大

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