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■    ■                                      No.008  01/03/11    
■      ■          http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/   
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■        ■      ドラゴニア通信                                  
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==== Index ===================================================

01: お知らせ
02: 先週のお薦め読書日記
03: 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編4)
03: 編集後記

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◆ お知らせ

  来週は所用のため、いつものように日曜日(18日)にこのメールマ
ガジンは発行しません。次回の発行は火曜日(3月20日)を予定して
います。

  どうぞよろしく。
                                            (了)

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◆ 先週のお薦め読書日記

  仕事が忙しかったせいで、更新する時間がとれませんでした。
  ほとんど掲示板で雑談しているだけですね。
  こちらが読書日記代わりになっている気配です。時間があれば、覗い
てやってください。

  仕事のほうは一段落したので、今週から更新してゆくつもりです。

  さて先週の読書日記は土曜日のみ。

   「藤野先生(中国語で読む魯迅)」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d23.htm#09

  現代中国語で原書を読む!
  まさか、自分でもこんなことをするとは思ってもいませんでした。
  でも、魯迅についてはなんとか出来ています。
  他の作家はどうかわかりませんが。

  魯迅という人の作品は、見た目は静かだけれど、実際は超高温を発し
ている原子炉みたいなところがあります。しかも、強烈な放射能を出し
ている。
  いちどでも、この人の作品を読んだら魂に刻印されたように忘れるこ
とができない。
  わたしも中国語を読んでいるのではなく、頭のなかで翻訳書を開いて
対訳みたいな形で中国簡体字を追っているだけかもしれない。

  でも考えてみたら、これもエラいことだ。
  ほとんどテレバシーといっていいかも!(笑)

  でもホントにそんな感じなんです。
  自分の神経回路に魯迅の意識が電脳接続(ジャックイン)して、交信
している――サイバーパンクみたいですけど。

  「藤野先生」のストーリーは、わたしにとって骨肉になっているんだ
なという気がします。初めて藤野先生が魯迅たち学生の前に現れたとき
に、「藤野厳九郎です」と自己紹介するときに、学生たちがどっと笑い
出すシーンがあるでしょう。
  ここで、ほろっときてしまった。

  わたしは時代遅れの化石みたいな日本人なんですね、きっと。
  こういう人がね……大好きなんですよ。

                                            (了)

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◆ 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編4)

  今回もまだ余談です。
  司馬遼太郎さんなら「以上余談ながら」といくところでしょう。
  乗りかかった船だ。このまま続けます。

  フロイトのノイローゼとはどんなものだったのか。
  まず、それを書きたいと思います。

  どうもフロイトは心臓病で余命いくばくもないと思い込んでいた節が
あります。いきなり胸が締め付けられるように苦しくなる。フロイトも
ウィーン大学出身の医者ですから、てっきり心臓病だと思い込んで、自
分の先輩たちに診断を頼みました。

  ところが器質的にはなんの異常もない。みんな慰めてくれるのですが、
フロイトは信用しない。自分が不治の病にとりつかれたと鬱状態になっ
てしまいました。

  実はフロイトが神経症を発症したのは、これが初めてではありません。
かなり重い乗り物恐怖症だったのです。
  本人は「汽車恐怖」と冗談めかして言っていたけれど、ほんとうはそ
ういうレベルじゃない。汽車に乗ろうとすると、パニックに襲われて心
臓は破裂しそうになるし、呼吸ができなくなり、脂汗が出る。不安感に
いてもたってもいられないまま、ただ耐えるしかない。
  おそらく今で云えば「パニック障害」というのに近いんじゃないでし
ょうか?

  結婚して子どもができると、フロイト一家は毎年必ず夏のあいだじゅ
う避暑に行く習慣がありました。
  ところが、お父さんのフロイトは妻や子どもたちと一緒の汽車に乗っ
たことはありません。威厳のある父親を演じたいフロイトは「パニック
障害」に苦しむ自分の姿を家族には見せたくなかったのかもしれません。

  実際子どもたちはフロイトがノイローゼにかかっていたことを知りま
せんでした。知ったのは父親が死んだあとで、友人との往復書簡が出版
されたおかげです。妻も含めてだれ一人信じられなかったそうです。

  パニック障害はかなり苦しいものですが、傍からみれば「笑い話」に
なるかもしれませんね。

  事実フロイトの弟子たちは、この「汽車恐怖」についてはよく知って
いて仲間内では好意的に話していました。精神分析の創始者であるフロ
イトは自分自身の病気を直せなかったのです。おかしなことに、フロイ
トに心酔した弟子のひとりにマックス・アイティンゴンという人物がい
ますが、この人に「汽車恐怖」は伝染したらしい。

  フロイトの神経症がこれだけだったら、はたして「夢判断」という書
物が出来たかどうか。
  ユンクでさえ、精神世界の探求者としてのデビュー作「変容の象徴」
を書き上げた代償に、数年間の精神分裂症にかかったのですから。

  20世紀において西洋世界に登場した精神世界探求の旅は、創始者た
ちのココロの病と切っても切れない縁があるのです。

  フロイトの場合、事情はもう少し深刻です。
  かれはただの「心臓病ノイローゼ」の治療に、麻薬コカインを服用し
ていたのですから。これはウソでもなんでもありません。
  この時期のフロイトと親友の往復書簡で本人が書いています。これは
英訳されていて、わたしも読みました。

  いまと違って、コカインの粉を鼻から吸引するかわりに、ヨードチン
キに粉末を溶かして鼻の粘膜に塗るのです。この当時、コカインは南米
で発見されたばかりの新薬でした。その薬効を研究する先駆的研究者た
ちがいて、フロイトのその一人だったのです。

  フロイトはコカインを精神安定剤もしくはカフェインに代わる興奮剤
として使えると思っていたのです。この研究をしていたのはフロイト三
十歳のころ。
  その後まもなくコカインの恐ろしい副作用が分かって、コカインを持
ち上げていた研究者たちはダメージをうけることになります。フロイト
も例外ではありません。
  ただ、鬱状態に悩むフロイトはコカイン使用を止められなかったのです。

  フロイトは当時婚約者だった妻にまでコカイン服用を勧めていました。
だが、一人の例外を除いては、自分を含めて麻薬中毒に陥った人はいま
せんでした。その人については、あとで触れることになると思います。

  不安発作が起こるたびに、コカインを服用するフロイト。
  そして、先輩医者から禁じられた葉巻を辞められない愛煙家でもあり
ました。こんな生活でノイローゼが直るわけがない。
 コカインの禁断症状さえ出ていたようです。

  三十代後半からフロイトは死の不安を親しい友人たちに頻繁に書き送
ります。じっさいにもう駄目だと思い込んだ時期もありました。
  そのうちコカインの服用で糜爛した鼻の粘膜から、いきなりどっと血
が噴出すようになる。
  悲観主義者のフロイトがそれを見てどう思ったか。想像するのは簡単
でしょう。

  気の弱い人なら、自殺したくなりそうなほど追い詰められた状態。
「夢判断」の執筆を構想したとき、フロイトが置かれていたのはこんな
状態でした。

  フロイトは自分の病を癒す過程で、無意識というもう一人の自分を発
見しました。それだけでなく、その体験をつづったのです。
  だからこそ「夢判断」という本は、20世紀思想・文学の開幕を告げ
るものたりえたといえるでしょう。

  この本は、追い詰められたフロイトが、自らを癒したプロセスを描い
た本でもあります。ジャン・ジャック・ルソーの「告白」と違って、ひ
どく暗示的ではありますが、20世紀にふさわしい自己探求の本となっ
ています。
  ルソーの「告白」が19世紀を用意したものとすれば、「夢判断」は
20世紀を用意したといえます。

  意識的にせよ、はたまたなぁーんにも考えていないにせよ、20世紀
のクリエーターたちは、フロイトのような立場を免れません。

  ちょっと話が飛びすぎましたね。
  そこへ行く前に、ノイローゼ時代のフロイトについてもう少し書きた
いと思います。「夢判断」を読み解くために、どうしても紹介したい人
物がいるのです。
  それについては、次回書くことにします。

                                         (この稿まだまだ続く)

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◆ 編集後記:

  最初のお知らせにもありましたが、来週のメルマガは火曜日に発行し
ます。どうぞ、お楽しみに。

  ところで読書日記でさんざんけなしてきたNHK大河「北条時宗」で
すが、4日の放送分は凄かった。画面にものすごい緊張感がみなぎって
いますね。
脚本もだれていない。

  ストーリーそのものが締まっていたせいもあるけれど、それ以上に凄
いのが渡部篤郎でした。この人は一挙手一投足にまで意識を入れている。
  渡部の気迫が画面からさえ伝わってきます。
  他の役者も、渡部がいると気合が違う。渡部が画面にいるだけで、空
気が違ってくる。この人は見るたびに成長している。たいした役者です。

  それと渡辺謙がいい。来週は「時頼絶命」ということで、渡辺謙と渡
部篤郎の共演は終わり。
  来週も見逃せません。

  では、また来週。

            工藤龍大

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