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■    ■                                      No.009  01/03/21    
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==== Index ===================================================

01: 先週のお薦め読書日記
02: 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編5)
03: 編集後記

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◆ 先週のお薦め読書日記

  しばらく留守にしていました。当然、更新はなし。
  それでもカウンターが回っているのは嬉しいかぎりです。

  ところで今週はそれでもウィークデイに更新していたんですね。
  なんだか自分を誉めてやりたい気分です。手前味噌ですけれど。


   「怪獣という名の志」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d23.htm#12

「ウルトラQ」や「ウルトラマン」をリアルタイムで観た世代は、もう
「仮面ライダー アギト」の視聴者のお父さんでしょうね。
  いや、そんなもんじゃないな。「HERO」は観るけれど、そんなお
子ちゃま番組なんぞ見向きもしない今時のお嬢ちゃんたちの親父だな、
きっと。ただし、田村正和みたいな訳にはいかないけれど。
  そんな人に読んでもらいたい日記です。
  3月20日までやっていた「高山良策の世界展」(練馬区立美術館)
について書いています。

   「歳月のちから」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d23.htm#13

  このごろ夢中になっているドイツ語。
  扱っているのは、文豪ゲーテが26歳で書いた「ファウスト」の初稿。
それがあの名作に結晶するまでの60年という歳月に思いをはせた読書
日記です。

   「19世紀の大河文明」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d23.htm#14

  かつて岩波新書に「ライン河物語」(笹本駿二)という名著がありま
した。今は品切れで書店にはありません。二年ほど前に記念復刊したの
ですが、もう在庫もないらしい。
  岩波書店のサイトでもオンライン販売の目録にはありませんでした。

  この本は高校時代から愛読書でした。どういうわけかドイツに興味が
あって、高校生の頃からニーチェを愛読し、ヘッセとハイネを読んでい
ました。かれらはみんなライン河周辺の出身でした。
  ドイツが世界に誇る文化を支えていたのが、ライン河です。

  そして独仏というヨーロッパ大陸の二大強国が抗争の火花を散らした
場所でもある。
  ベルリンの壁崩壊からユーロの通貨統合が迫りつつある現代から考え
れば、信じられないことですけれど。

  25年以上も前に笹本さんの本を読んだ人なら、いまの世界の変わり
ように絶句する他はない。笹本さんのころは米ソの冷戦真っ盛りでした
から。
  ソ連邦が崩壊するなんて夢想した人はいませんでした。そのかわり、
核で世界が滅びるだろうと、みんな漠然と覚悟していたけれど。

  そのライン河の今を伝える「ライン河紀行」(吾郷慶一)を読んで、
ヨーロッパ近代文明の産みの親だった大河の越し方を考える読書日記です。

                                            (了)

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◆ 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編5)

  いったいフロイト編はいつになったら終わるのだろう。
  なんて疑問を持った人はいないですか。
  たぶん当分終わらないと思いますよ。書きたいことがまだまだ尽きて
いないから。
  気長にお付き合いいただけるとありがたいです。

  さて、前回まで「夢判断」執筆にとりかかるまでのフロイトの生活を
紹介してきました。今回からは、フロイトをめぐる人間関係に眼を向け
たいと思います。

  その前に、フロイトという人の性格について触れておいたほうがいい
かもしれません。平均的な日本人ならフロイトの写真を見たことがない
人はいないんじゃないでしょうか。そう、あの葉巻を持って、こちらを
睨みつけているあれです。
  あの写真をみて、高弟ユンクを破門した経緯を知っていたりすると、
ずいぶん頑固で融通のきかない独善的な権威主義者というイメージを持
つのが当たり前。
  偏執狂的なマッド・サイエンティストといえないこともない。

  ずいぶん奇怪な学説もありますからね。
「トーテムとタブー」という本ではこんなことを書いています。
  原始時代の人類は群れを作って乱婚状態にあった。群れのボスで女た
ちを独占していたのは父親。その父を息子たちが殺して、性の自由を獲
得した。しかし、父親を殺した罪悪感から、かれらは祭祀を始める――
それが宗教の起源だとか。
  これだけ聞くと、何をばかなと言いたくなりますが、それについては
ちょっと考えていることがあるので、機会を設けて書くことにします。

  話を元に戻しましょう。
  写真から受けるイメージが良く言えば「男性的な知識人」だとしても、
それはフロイト本来の性格とはかなり違うようです。
  むしろあの写真はフロイトが意図的に周囲に見せかけたかった偽りの
自我イメージです。
  本当のフロイトは、おしゃべりで軽率でそそっかしい。「軽薄」とい
うイメージがぴったりなところがあります。
  ついでに甘ったれで強情。
  自分自身が嫌っていた「女性的特質」というやつをたっぷり持ってい
た人物でした。

  そのフロイトの交友関係や師弟関係をよく見ていくと、ひとつのパタ
ーンがみつかります。
  フロイトは必ず同性の友人に惚れこむのですね。時にはそれが同性の
教師の場合もある。それも友情や師弟愛という生易しいものじゃない。
  ほとんど恋愛感情ですね、あれは。

「フロイトはゲイだった!」
  なんてことを言う人もいるくらいです。
  ただゲイという言葉を同性を性愛の相手とする人として捉えると、フ
ロイトには当てはまらない。そういうわかり易い性格ではないのです、
この人は。

  フロイトの交遊関係には一つのパターンがあります。
  のぼせたというくらい相手にのめり込む時期があり、次いで冷酷なく
らいきっぱりと付き合いを断つ。
  しかものめり込む相手には、共通点がある。

  まず容貌が立派でないと駄目。知的でかつ意志的な感じ。
  ただし、外見だけではなく、中身もそうじゃないといけない。
  こう書くと「プラトニックなホモじゃないの」という疑いがますます
強くなりますね。

  とにかくフロイトは憧れの教師や先輩、友人がいないと駄目なんです。
ものすごい甘えっ子という他はない。
  ところが、ただの甘えっ子と違うのは、べたべたと湿気の強い付き合
いを通じて、相手の優れたパーソナリティを吸収してしまうのです。
  わたしたちが知っているフロイトのパーソンリティは、かつて惚れ込
んで付き合った教師・先輩・友人たちのそれを融合して統合したものな
のです。

  これだけ他人に影響される人も珍しいかもしれません。
  ロシアの小説家チェーホフの「可愛い女」という有名な短編がありま
すね。付き合う男性たちの性格にどんどん自己同一化してゆく恋多き女
性の話ですけれど、フロイトはこのヒロインにどこか似ています。

  この傾向は実は生涯変わらないのです、不気味な話ですが……。
  フロイトの著作にはそれぞれ有能な弟子たちのパーソナリティの刻印
が深く刻み込まれています。さっき、ちょっと名前をあげた「トーテム
とタブー」。
  この本は、C・G・ユンクのパーソンリティを吸収した所産だったと
思います。

  フロイトの周囲にいた優れた男性たちは、まるで吸湿機のようにじわ
じわと自分たちを吸い取ろうとするフロイトに恐れを感じたのかもしれ
ません。
  敏感な弟子はユンクやアードラーみたいに逃げ出して反逆し、従順な
弟子たちは衰弱して精神を病んで早世した。
  これは冗談ですけれど、よく考えてみると……いや、止めておきまし
ょう。

  フロイトの弟子で最後まで付き合えたのは、あんまり有能ではない連
中ばかりだった。それは間違いありません。少なくとも、フロイトが魅
力を覚えるような精神的特質の持ち主ではない。

  大勢の弟子たちが反逆して去っていったのは有名な事実です。
  ただしこと女性に限っては、それはなかった。
  暗示的なことに、晩年のフロイトに周囲にいたのは、女性の弟子だけ
でした。

  まるでフロイトが精神的ヴァンパイアだといわんばかりですけど、こ
の想像はあながち見当違いではないようです。
  天才というタイプには、よくある現象なのです。

  人を威嚇するようににらみつけるフロイト。生涯笑ったことがないよ
うな苦虫を噛んだような顔で。
  怖いひと。威厳ある人と普通は思うでしょうね。
  でも、あれはエルンスト・ブリュッケという大学時代の恩師の真似な
んです。(笑)

  若い頃は、洒落た会話が得意な人間になろうとしたこともあるのです。
婚約中の未来の妻にあてた手紙を読むと、そのことがよくわかる。
  パーティで気の効いた科白を連発する人気者になろうとして、コカイ
ンを服用して出かけたほどでした。
  なんか哀しいものがありますね。

  これはフランスに留学したときに学んだ恩師ジャン・マルタン・シャ
ルコーの真似でした。
  コカインの服用じゃなく、洒落た会話と洗練された物腰。女性に人気
のあるインテリ――とまあ、いいことずくめのシャルコーにあやかろう
としたわけです。

  ただ人間、無理は禁物。所詮は「鵜の真似をするカラス」です。
  フランス男の真似など、モラビア(現ポーランド)の田舎生まれのフ
ロイトには無理。すっかりフランス嫌いになって、ウィーンに帰ってき
ました。
  天才でも吸血鬼でも、肌に合わないものは吸収できないようです。

  そういう人生を歩いてきたフロイトです。
  とうぜん人生の岐路となった「夢判断」を書くにあたっては、だれか
のパーソナリティを吸収する必要があった。
  あえていえば、「夢判断」を書いたのは30代までのフロイトではな
く、その誰かのパーソナリティがのり移った(転移した)別人だったの
です。

  それが誰かは、よく知られています。
  ヴィルヘルム・フリースというベルリンの医師です。

  それについては、次回書くことにします。

                                         (この稿もう少し続く)

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◆ 編集後記:

  しばらく京都を旅してきました。
  詳しいことは、そのうち読書日記に書く予定です。
  それにしても展覧会や旅行の話ばかりですね、あれも。
  どこが読書日記かという気もしないのではないのですが、わたしの頭
の中では「読む」という行為は活字ばかりに限らない。
  世界そのものを書物としたデカルトの心意気!――と思っています。

  余談ながら、勝手なことをもうひとつ。
  どうやら今年はわたしにとって、ドイツ語元年&中国語元年となりそ
うです。
  ドイツ語は大学時代から断続的に二十年間、出来もしないのによく続
けたものだと思います。辞書を引きながら文献を読んだり、新聞程度な
ら辞書なしでわかる。その程度でずっと来ました。
  それでいて何度も挫折しながら単語集を繰り返し紐解く。文法書を通
読する。
  いやはや諦めが悪い。

  ただ今年になって、どういうわけか文学作品(しかもゲーテ!)を辞
書なしで読めるようになりつつあります。

  会話は言いたいことなら言えるけれど、相手が何を言ってるかはわか
りません。でも、外国語習得ではリスニングがいちばん難しい。そっち
までトレーニングする時間はないので、ほっておきます。

  英語習得の体験からいうと、いまの状態は英語で速読能力を獲得する
寸前のところまで来ています。もう二冊か三冊辛抱して原書を読むと間
違いなく、ブレークスルーして、ドイツ語で思考できるようになるはず
です。それまで辛抱強く、この修行(笑)を続けるつもりです。

  中国語は10年前に初級文法を終了しました。
  こっちはドイツ語よりももっといい加減に勉強してきたので、出来の
悪い高校生の英語程度の状態で長いこと足踏みです。
  今年は魯迅と本格的に出会ったおかげで、休眠状態の中国語が発動し
たようです。
  ただリスニングやスピーキングにまで時間とお金をかける気はないの
で、使える中国語にはならんでしょう。

  外国語の実力って、しょせん費やした時間とお金そのものなんですよ。
  頭脳は関係ない。
  だから、ドイツ語と中国語は本が読めるところで学習は一応あがり――
ですね。もう勉強はしません。
  そういうわけで、ドイツ語と中国語は学校式の勉強を卒業――かな?

  これからは、英語だけでなくドイツ語や中国語の本もどしどし読んで
読書日記に書いていきたいと思います。フロイトの「夢判断」や「ヒス
テリー研究」も原書でぼちぼちと読んではいますが、なんとか今年中に
読了したいなあ。
  いや、きっとやるぞーっ。

  ずいぶん長い余談でした♪(笑)

  ところで、お詫びをひとつ。
  20日に発行予定でしたが、執筆に時間がかかりすぎて1日遅れで本
日発行しました。
  たまにはこんなこともあります。(居直り!)

  では、また来週。

            工藤龍大

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