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■    ■                                      No.014  01/05/06    
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==== Index ===================================================

01: 先々週のお薦め読書日記
02: 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編8)
03: 編集後記

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◆ 先々週のお薦め読書日記

  前回の日曜日はメールマガジンをお休みしてしまいました。
  休みの谷間は忙しくて、書く暇がとれない。
  というわけで、遅れに遅れた14号を、本日発信します。

  先々週は大型連休のはじめで、少し時間がとれました。
  そこで「本のリスト」を更新しました。
  日記のほうも更新しています。

  白樺派の作家は、どういわけか人生の達人という感じの人が多い。
  この人、里見クもそのひとりです。
  里見クが明かしてくれる文章を上達させる奥義に興味がある方はこち
らをどうぞ。

    「文章の達人になる方法」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d24.htm#27

    「究極の文章上達法とは」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d24.htm#26

  「文は人なり」という言葉の意味が、身にしみてわかります。
  そしてある程度成長してしまった大人がなぜ、ちんぴらな作家の本を
読めなくなるかという謎も。
  文章とは言語操作の才能ではなく、ものの見方、他人への共感力とい
ったEQとIQをひっくるめた人間力そのものだ。
  こういう事実を突きつけられたとき、さてどうするか。

   土曜日(28日)に東京駒込にある六義園と古河庭園に行ってきまし
た。有数の名園を歩き回った観想がこれ。

    「内蔵助と黄門様の仇は庭作り名人!」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d24.htm#28

  ご存知のように、六義園は黄門様の敵であり、大石内蔵助を狙う黒
幕(笑)・柳沢吉保が作った庭園です。

  同じ日に、神田神保町に行ってきました。
  神田神保町ファンだったわたしが久しぶりに訪れた街は……。
  ここで書くことはあまりありません。
  哀しみを共有してくれる方がいたら――幸いです。

    「本の街はいま……」
    http://www32.ocn.ne.jp/~thkudo/page/dy/d24.htm#29

  けっきょく、先々週書いた日記は全部お薦めにしてしまった。(笑)

  さて、連休中に書いた日記については、次回にまわします。
  それと、新しいコンテンツも作りましたが、もうご覧になりました?
  まだなら、どーぞ見てやってください。
  リンクはトップページにあります。(笑)

                                            (了)

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◆ 企画「21世紀に読み継ぎたい作家」(フロイト編 8)

  しばらく休んでいたので、話の続きに戻るのに苦労しています。
  それだけでなく、このあたりの話を整理して要約するのが難しいとい
う事情もあります。

  なぜなら、フリースとの出会いと別れこそが、フロイトの「精神分
析」誕生の秘密に他ならないからです。

  小此木啓吾さんの一連の本はそのあたりの事情を、的確にまとめてあ
るので、興味がある方はそちらを読んでください。
  わたしとしても、小此木さんの意見に大筋で異論があるわけじゃあり
ません。違いがあるとすれば、フリースとの出会いに、作家フロイト誕
生の秘密があるという点だけです。
  精神医学者であるよりも、文学者としてのフロイトのほうが面白いわ
けでして、本業が慶大医学部教授の小此木さんとはそこが違っている。
  お医者さんからみれば、とんでもない話でしょうが。

  さて、フリースと決別したフロイトは貰った手紙をすべて焼き捨てま
した。自分の手紙の控えももっていたはずだけど、それも焼き捨てた。
  フロイトは極端に自分を隠す癖のある人で、十年に一度はうつ状態に
なって日記を焼いたりします。
  最晩年の日記しか残っていないのは、そういう事情だからです。
  うつになるたびに「もう死ぬ」と悲観して、身辺整理のつもりで日記
を焼くのですね。

  以後、フロイトはフリースとのつきあいときっぱりと断っていました。
  ところが、1928年にフリースが死ぬと、フロイトの耳に驚くような
知らせが入ってきた。
  フリースはフロイトから貰った手紙をきちんと保管していたのです。
  それを未亡人が、古書店に売るつもりだった。
  秘密主義者のフロイトは、未亡人に連絡して、その手紙を買い取って
焼き捨てるつもりでした。
  ところが、フロイトの弟子だったマリー・ボナパルトがその話を聞き
つけて手を回して書簡を買い取った。フロイトはなんとか焼き捨てるよ
うに頼んだり、お金を工面して買い取ろうとしました。
  気の毒なことに、第一次世界大戦後にオーストリアは大変な不況とイ
ンフレが起きたので、フロイトにはお金がない。貯めていた銀行預金が
紙切れ同然になったからです。
  しかもマリー・ボナパルトはあのナポレオンの弟の血筋につらなる貴
族。ギリシア国王の弟と結婚していたので、王族のひとりでもある。
  お金には全然困っていないから、先生の願いには耳を貸さない。
  フロイトの娘のアンナ・フロイトと相談して、フロイトの死後まで公
表しないと約束しました。ただし、アンナとマリー・ボナパルトだけは
書簡を読んでいました。

  おかげで、現代のわたしたちも、四十代のフロイトの生き方を追体験
できるわけです。マリー・ボナパルトはエドガー・アラン・ポーの精神
生活を分析した大著を書いた人でもありますが、今となってはフリース
宛て書簡を保存した功績のほうが大きいかもしれません。

  フロイトは大学教授の地位を手にいれ、国際的な有名人にもなりました。
  表面だってはフリースに触れることを嫌がりました。
  高弟たちも、どうやらフリースとの付き合いに師匠の秘密があるとか
ぎつけたのですが、フロイトのガードが固くてよく分らない。
  1928年といえば、主だった男の弟子は離反しているか、死んでいる。
かれらは謎をかかえたまま、この世を去ったはず。

  そのひとりに、カール・アブラハムというベルリンの精神医学者がい
ます。
  この人は人格円満で、理性が勝っていた常識人でした。
  フロイトの男の高弟たちが次々と離反して行く中で、少なくとも死ぬ
までフロイトとつきあえた数少ないひとりです。

  最晩年のフロイトのまわりにいたのは、女性同性愛の匂いがする女弟
子ばかりでした。そのなかには、フロイト自身の娘、アンナ・フロイト
もいます。
  ファッションに無感心な「ペニスの生えた女たち」というのが、彼女
たちにつけられた仇名でした。
  そういう環境を周囲に作り出したフロイトの内面には、興味深いもの
があります。

  閑話休題。
  アブラハムの話に戻りましょう。
  この人はベルリンで開業していたので、フリースとも顔見知りでした。
  アブラハムの眼から見たフリースは、カリスマ的な魅力があり、それ
でいて理性的な常識人だったそうです。
  フリースは求められれば、アブラハムにフロイトとの昔話を語ってく
れたとか。

  ところで、アブラハムは1925年に死んでいます。
  もしフリースが死んだとき、アブラハムが存命だったらどうなったか。
  おそらくフロイトの願いを聞いて、フリース未亡人から書簡を買って、
フロイトに渡していたでしょうね。
  もちろん手に入れたフロイトは焼き捨てに決まっている。
  フリースと親しかったアブラハムが48歳で早世してくれたおかげで、
書簡は残ったといえないこともありません。

  さらに、フリースについては後日談があります。
  最晩年のフロイトを、若い男が訪問しました。
  ベルリンから来た男の名前は、ロベルト・フリース。
  フロイトも赤ん坊姿を見たことがあるフリースの長男です。

  そのころ、フロイトは十数年前に発症したガンが重くなり、身体の自
由も失いつつありました。
  気がむけば、かなりおしゃべりだったのに、顎のガンのせいで言葉
の自由も失われていた。

  名声とは裏腹に寂寞としたフロイト。
  その目の前に現れた青年を、かれは歓迎したそうです。この頃はすっ
かり人嫌いになって、知人でさえ面会することは難しかったのですが。

  フロイト邸を訪れたロベルト・フリースの職業は、精神分析医でした。
  父からフロイトの話を聞かされて育ったロベルトは、フロイトの間接
的な弟子といえる存在になっていたのです。

  この事実だけからも、フリースは友情に篤い人間だったと思います
ね、わたしは。

                                      (この稿続く)

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◆ 編集後記:

  ゴールデンウィークも終わりですね。
  なんとか休養できたような気がします。
  この時期、美術館・博物館にいってもろくなことがないのはすでに経
験済み。だから、土曜日に六義園に行った他はどこには行かなかったけ
れど、自分としては大正解でした。

  いまは余力をたくわえて、5月18・19・20日の浅草三社祭りに
備えるつもりです。
  神輿をかつぐ予定はないけれど、あれは出かけるだけでエネルギーを
使いますから。
  とにかく、三社祭りをクリアしないと、夏が来ない。
  なーに、云ってるんだかと言われても、こればかり譲れません。

  神田祭も良いけれど、神社にお参りして屋台でビールを飲むと、それ
だけで自己完結してしまうあたりがつまらない。
  それに神田や湯島天神のあたりはさんざん歩き回ったので、もうイー
ですって感じもある。
  をっと、そんなことを云うと、将門さまの霊が怒るかな?

  わたしにとって、春という季節は、千鳥が淵の夜桜見物と浅草三社祭
りが必須です。どっちも都合が悪くて出かけられなかったり、せっかく
出かけた日に雨が降ったりすると――その年は不吉なような気がします。

  哀しいくらい日本人度(!)が高いなあ。
 我ながら感心しちゃいます。(笑)

  では、また来週。

            工藤龍大

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